今の私からは想像すらできないかもしれないが、中学校の頃の私は自分でいうのもなんだがムードメーカー的な存在だった。
なにか代表を決める時も率先して手を挙げて立候補していたし、とにかく自分が目立って周りのみんなが笑ってくれるのが快感だった。
当時はそんな言葉はなかった気がするが、スクールカーストというものがあるのであれば間違いなく上の方に位置していただろう。そんな人気者のりゅーねさんだったので男女問わず色々な人と仲良くしてもらっていた。
その仲良くしていた友達の一人に荒木さんという女の子がいた。
荒木さんは非常に大人しい子で、かなり目立たないタイプだった。
学校でも一部の女子とちょっと話すだけで、あまり男子としゃべっているところを見たことがなかった。
一方私は目立つ方の分類だったので当然周りもそういう活発で目立つような友達が多かった。当然荒木さんのようなタイプとは全く接点がなく、日常生活の中でほとんど話すこともなかった。
私の中学校では席替えがくじ引きで決められており、隣は必ず異性になるというシステムが採用されていた。
くじびきで決まった席をみて「えー、俺○○が隣かよ、最悪だし!!」みたいなことをいいながら本来はくっつけて並べなくちゃいけない席をちょっと離して文句をいうところまでが席替えみたいなことろがあった。思春期かわいい。
私はというと人間関係において怖いものが一切なかったし体裁とかを取り繕う必要がないほどみんな味方だったので、何も考えず「よろしく!」なんていいながら机をくっつけて座っていた。
何回か席替えをするなかで、隣が荒木さんになった。
最初は大人しくで自分が苦手そうな感じだったので席が決まった時は普通に早くまた席替えして欲しいなんてことを思っていた。
仕方がないから話しかけてみると、意外なことに会話がとても弾んだ。
荒木さんはちょっとサブカル女子っぽい感じだったので、アニメとかゲームとかの話に詳しかった。
私もゲームやアニメが大好きだったのでその話ですごく盛り上がった。
その中で、好きなゲームの話になった。
私は「FF10」とか「鬼武者2」とか結構メジャーなタイトルを挙げていたのに対して、荒木さんは「シャドウハーツ」を即答で挙げた。
そのときは荒木さんはマニアックなサブカル系女子だからマイナーな作品が好きなんだろうなーくらいに思ってまったく興味が湧かなかった。
そんなこんなで毎日いろいろな話をして盛り上がった。
荒木さんはお顔も普通に可愛くて、いまだに卒業アルバムを見てもクラスで1、2番目に可愛いと思う。
気がつくと荒木さんと話すのを楽しみに学校に行っている自分がいた。
今考えるとこのとき私は荒木さんのことを好きだったんだろうなと思う。
ある日、荒木さんのお友達の女の子から
「○○(下の名前)、付き合うならりゅーねくんがいいって言ってたよ。」
という話を聞いた。
そのとき私は「へー」となんとも微妙な苦笑いをしてお茶を濁した。
あの時の私は荒木さんを好きじゃないと思い込もうとしていた。
理由は2つあった。
荒木さんと付き合って周りに茶化されるのが嫌だったという理由。
もう一つは、荒木さんの名前が自分の実の妹と全く同じという理由。
妹と同じ名前の女の子と付き合ったら、下の名前で読んだ時絶対妹が頭を過ぎる。
今は荒木さんだけど付き合ったら下の名前で呼ぶだろうし、、
そんな今考えると本当にどうでもいいような理由で好きな気持ちをなかったことにしていた。
そんなこんなでお互い気持ちを伝えることもなく中学校を卒業した。
そして高校生になった。
環境も変わって高校生活にいっぱいいっぱいだった私は荒木さんのことを少しずつ少しずつ忘れていったのだった。
高校2年生のある日、風に噂で荒木さんが学校に行っていないという話を聞いた。
たしかにあまり人との距離感を取るのが上手い子ではなかったけれど、なぜ学校に行かなくなってしまっていたのだろうか。
いじめにでもあったのだろうか、なにか病気にでもなってしまったのだろうか。
とにかく心配で心配で仕方がなかった。
そして、
「○○(下の名前)、付き合うならりゅーねくんがいいって言ってたよ。」
という言葉を思い出した。
きっと辛い状況を一人で思い悩んで苦しんでるんじゃないだろうか。
あの時勇気を持って気持ちをちゃんと伝えていたら、こんな状況になる前になんとかできたんじゃないだろうか。
そんなことばかり考えるようになっていた。
いてもたってもいられなくなり、荒木さんに連絡をとって話をしたいと思ったが何の話をしていいんだろうとめちゃめちゃ悩んだ。
いきなり学校行ってないんだって?なんて話をするのはデリカシーがなさすぎるしなんの用事もないのにいきなり連絡するのは不自然だ。
そのとき荒木さんが「シャドウハーツ」が好きという話を思い出した。
そして思った。荒木さんが言ってたシャドウハーツを俺もやってその話をしよう!!
私はすぐにWonderGOO(ゲーム屋さん)にいってシャドウハーツを買った。
そんな邪な理由で購入したシャドウハーツは引くほど面白かった。
寝る間も惜しんでめちゃめちゃやってしまったし、めちゃめちゃ笑ったし、めちゃめちゃ泣いた。
シャドウハーツのことを大好きになるのと比例して、シャドウハーツの話を荒木さんとしたいという気持ちも強くなっていった。
ただ、一番の問題に気が付いた。連絡する手段がない。
中学校の時一応携帯電話はもっていたが、その時相手は携帯を持っていなかったので電話帳に荒木さんの名前はない。
でもどうしても連絡して話したかった。
そこで考えた結果、唯一の連絡手段を見つけた。
それは中学校の連絡網だった。
ただし中学校の連絡網に乗っているのは家の電話の番号だ。
もちろん出るのは高確率で荒木さんの両親だろう。
お義父さんが出てきて、「誰だお前は、うちの娘はやらん!!」と受話器越しにバチバチにキレられる可能性だってある。
だけどそんなリスクがあったとしても話したかった。
そして意を決して心臓をバクバクさせながら電話をしたのだった。
1回目の電話。出たのはお母さんだった。
○○さんいますか?と聞くとどうやら不在のようだった。
この時名前も名乗らずまた掛け直しますといってすぐに電話を切ってしまった、完全に不審者だった。
2回目の電話。出たのはお義父さんだった。
あー、これはやばいと思って○○さんいますか?と聞いたら普通に取次いでくれた。
そうして荒木さんと話した。2年ぶりくらいに話した荒木さんは、少し大人びて前より落ち着いている雰囲気だった。
俺は平然を装って雑談をしたが、緊張してしまって全然トークが盛り上がらなかった。
シャドウハーツの話もそんなに食い付いてくる感じもなく、5分くらいで終了した。
15分くらい話して、そろそろ電話を切らなきゃという感じになってきたので携帯のメールアドレスを口頭で伝えた。
電話で伝えやすいように、あらかじめとても短いメールアドレスに変更しておいたので、スムーズに伝えることができた。
それからメールを何通かしたけれど、メールが全然上手じゃなかったので(今も下手)あまり盛り上がらず結局疎遠になってしまった。
それから時がすぎて私は20歳になった。
相変わらず女性に縁のない生活で、彼女いない歴20年絶賛更新中だった。
そんな20歳の最大のイベントといえば成人式。
久しぶりに地元の懐かしい友達と顔を合わせていろいろ話すことができる貴重なイベントだ。
私は、成人式なら荒木さんに会えるんじゃないかとわくわくしていたし緊張していた。
20歳になって、あの時より大人になった今なら荒木さんともっと上手にお話しする自信があった。
だから成人式は荒木さんとお話しできる最後のチャンスだと思っていた。
そうして迎えた成人式、荒木さんの姿はどこにもなかった。
成人式で会えなかったということは、探偵ナイトスクープでも使わない限り私たちまた出会うことはないだろう。
あの時のグダグタの電話が最後の会話になってしまったのが心残りだが、これ以上詮索するつもりは私にはない。
どこかで幸せに生活してくれてるといいなと心から願っている。
そしてそんな思い入れのある「シャドウハーツ」は今でも本当に大好きなゲームだ。
またどこかで時間を作って最初からじっくりとやりたいな。